経済を最優先にするか、
自然の摂理を最優先にするか。
肉食獣だって、必要以上に命を奪わない。
でも人間は違うんだよね。
お金のためなら平気で命を奪う。
これは特別な例でもなく、実は毎回こうなのかも。
金に魂を奪われているから、気づかないだけで。
気づけば別のシナリオがはじまる。
そういうことって、よくあるんだけどね。
トウモロコシを作った木村秋則さん。
タヌキの害に腹を立ててワナをしかけた。
ある日、一匹のタヌキがワナにかかる。
木村さんは、憎たらしいタヌキに向けて棒を振り上げた。
と、そのとき・・・。
別のタヌキが、木村さんの前に飛び出してきた。
木村さんに対して、威嚇するわけでも、怖がるわけでもない。
ワナにかかったタヌキをかばうように、間に割って入ったという感じなのだ。
木村さんは、2匹のタヌキを交互に見た。
ワナにかかったタヌキは、明らかに体が小さい。
子ダヌキのようだ。そして、飛び出してきたのは、どうも母ダヌキ。
母ダヌキは、哀願するような目で、木村さんを見上げている。
とても頭上に上げた棒を振り下ろす気にはなれない。
しかし、このままだとタヌキにトウモロコシを食べられ続けることになる。
数分の葛藤があった。木村さんは、棒を捨てた。
そして、子ダヌキの足を挟んだワナをはずしてあげた。
「ワナは、足の先を挟んでいるくらいで、子ダヌキは怪我もしてなかった。
だから、すぐに逃げればいいのに、私の目の前で、母ダヌキが、子ダヌキの足をなめてあげてるのな。
私は、じっとながめているしかないわけよ。
トウモロコシを食べられて間抜けだよな。アハハハ。
しばらくして、2匹は岩木山の方へ戻って行ったよ」
それからどうなったか?
なんと、ぴたっとタヌキが姿を現さなくなったのだ。
トウモロコシも取られなくなった。
まるで、タヌキたちが会議を開いて、木村さんのトウモロコシは取らないように決めたように。
よかったよかったということになるのだが、なんだか、木村さんの心の中はすっきりしない。
あいつら腹を空かしているんじゃないだろうか。
岩木山を見るたびに気になって仕方ない。
そこで、木村さんは、小さくて安くしか売れなかったり、商品にならないトウモロコシを、畑の隅に積んでおくことにした。
これは、お前たちにあげる分だよという気持ちを込めて。すると、翌朝から、その分だけがきれいになくなっていた
by: さそい水
『奇跡のりんご』 木村秋則